志をはたして いつの日にか 帰らん
先日の発表会で年長児が斉唱した「ふるさと」の一節です。
普段聴いても素晴らしい歌ですが、子ども達の声で聴くと、より一層「ぐっ」ときます。幕末から明治維新の礎(いしずえ)となった長州藩の吉田松陰先生は「志をもって、万物の源(みなもと)となす」と、志をたてることの大切さを、松下村塾の塾生達に教えたことは有名な話です。
さて一般に、「夢」と「志」は混同して用いられるケースもあるようですが、夢が英語でDreamであるのに対して、志はVisionと訳されます。
また夢は個人的な願望、たとえば「大きな家に住みたい」とか「海外旅行に行きたい」など自分一人の叶えたい願いや、望みを指すのに対して、志は公(おおやけ)に尽くすこと、利することとされます。「困っている人達を助けたい」、「皆が幸せに暮らせる社会をつくりたい」等は、志と呼ぶに相応しい内容です。
かつての日本では、個人の願望だけを追求し続けるような人を「いやしい」と評していました。ご存知のように、日本は「ムラ社会」を基盤として発展して来ました。狭く限られた地域の中では、そこに暮らす者は誰もが協力し合わねば、生きて行けませんでした。そして「自分さえ良ければ」と考える者は、必然的に排除されてしまうのです。
ですから日本人は、「誰かの利益のために一所懸命」な人を応援したくなり、「自分の利益のために一所懸命」な人を嫌悪するDNAが残っているのです。
それなのに近年では、たとえばネット取引で巨万の富を得た人を、まるでヒーローのようにもてはやす風潮があるのは、実に残念なことだと思います。
本園で毎朝子ども達が唱和している「おちかいのことば」に、「今に大きくなったら、少しでも世の中の為に善いことをする人になります」とありますが、これが「志」です。
今月、年長さんは卒園して行きます。幼稚園からの卒園児へのお祝いの品は、昨年度から「日本はこうして世界から信頼される国となった・ジュニア版」(佐藤芳直著・プレジデント社)を贈呈しています。
漢字にルビ(ふりがな)が付いているとはいえ、小1になったばかりの子どもには、少々難しいかもしれません。私は是非親子で読んで頂きたいと、心から願っています。なぜなら、この本には「志をはたした」先人達、すなわち私達の先祖の物語が凝縮されているからです。
私は昨年「教科書には書かれていない内容ばかりですから、試験には出ないかもしれませんが・・・」と、卒園児の保護者に説明しましたが、なんと今年ある私立中学校の入試問題(国語)にこの本の一部が用いられました。
世の中の変化の兆しが、感じられます。