先日、あかつきノートの「家庭から」の欄を読んでいましたら、素敵なお話が書いてありましたので、ここで紹介します。年中組の女児のお母様が書かれていたのですが、今年のオペレッタの配役にかかわるエピソードです。
去る22日の発表会当日もご覧頂きましたが、今年の年中さんは「猫のお城」というオペレッタを演じてくれました。お城に住んでいる上品な猫と、ドラネコ、それに夜の小人や木のオバケが登場します。そしてその役決めに関しては、基本的に子どもの自発的意思で配役が決まります。
ある日のこと、その女の子が帰宅して「今度のオペレッタは、ドラネコになった」と母親に報告しました。お母さんは少々驚き、どうしてお姫様の猫の役を選ばなかったの、そっちの方が衣裳も綺麗そうで良いじゃない?と問いますが、娘の方は「いいんだも~ん」の一点張りです。
更にお母さんは、それは先生が決めたの?と問いますが、「私が自分で選んだの」という答えが返って来たそうです。
この時のお母さんの心境は、分からなくもありません。母親としては娘に少しでも「素敵そうな役」に就いてもらいたいものです(勿論、幼稚園で行うものに「素敵な役」、「素敵じゃない役」の区別はありません)。
また実際、特定の役に希望者が極端に集中した場合、担当の先生が調整することもありますので、このお母さんの想像は、あながち外れている訳ではありません。
ともあれ、お母さんの頭の中では「何故、うちの娘がドラネコ?」という疑念が、残り続けたそうです。

ある日のこと、その子がお父さんと一緒にお風呂に入った後、お父さんが「真相が分かったよ」と、報告されたそうです。それによれば「あのね、女の子の多くがお姫様の猫を希望していたの。そうすると、王子様の猫が足りなくなってペアが組めなくなるから、私はドラネコの方に手を挙げたの」ということだったのです。
ノートでは「娘はいつの間にか、全体のことを考えられるように成長していました。それに対して、私は『自分の子さえ良ければ』と考える親バカならぬ、バカ親になっていました。そのことを娘から教えられました」と結ばれていました。

私はこの女の子の優しい心情に感激すると共に、父親に素直に話が出来る関係性や、子どもから教えられたことにより、自らを省みることが出来た母親の態度に、心から敬意を覚えました。
世間には子ども同士の競争を煽(あお)る園も存在します。私も「負けん気」は大切だとは思いますが、必要以上に大人がけしかけるのは、どうかなと思います。
それよりも、僅か五歳で全体(帰属する集団)のことを、考えることが出来るような子が育っている事実に感動し、そのような幼稚園の園長でいられることを誇りに思います。