私が幼児教育の世界に身を置くようになって、四十年が過ぎました。創立者である父が他界するまで、僅か二年間ではありますがクラス担任をしたことがあります。
今考えても、いい加減というより実に勝手な担任で、他のクラスと足並みを揃えず(今だったら絶対許されないですね)、「女の先生と同じことが出来るか!」と、息巻いていました。ホントのところは、したくても同じことが能力的・技術的に出来なかったのですが。
その頃、私にとって後に大きな影響を及ぼす二つの体験をしました。一つは「鯉のぼり」の制作です。その当時の鯉のぼりづくりは、保育雑誌の付録についている台紙を切って、糊付けしたら「ハイ、出来上がり」という安易なものでした。私はそれが不満で、大きな不織布を本物の鯉のぼりのサイズに合わせて裁断し、自分のクラスの子ども達にクレヨンで色を塗らせ、完成させました。
竹竿に取り付け、屋上に設置すると、五月の風に乗って、子ども達が造った鯉のぼりが見事に泳いだ時、クラスの中で一番熱心に色塗りをした男の子が、私にこう言いました。「先生、みんなで作ったから、よく泳ぐんだね」。
この言葉は、私にとって衝撃でした。大人だったら「私が頑張ったから・・・」と自分の手柄にするところですが、みんなで頑張ったから、とするこの子の心もちに感動し、こういう世界なら、我が生涯を賭しても悔いは無いだろうと決意しました。
もう一つの体験は、ゾッとするものです。その日の保育が終わり、子ども達が帰った後で振り返ると、思い出せない子がいたのです。
「あれっ、この子は今日何をしてたっけ?あの子に対して、僕は何か話しかけたかな?」。
背筋が寒くなる気がしました。確かに幼稚園の先生は「ハイ、〇〇組のみなさん!」と語りかけるのが定番ですが、だからといって個別に話しかけなくとも良い、ということはありません。ヘボ担任だった私は、クラス全体は観ていても、一人ひとりの子ども達を観ていなかったのです。実はこの時の反省から、後日「あかつきノート」が、誕生することになりました。
園経営に携わるようになってからも、成功事例より、失敗や反省点の方が遥かに多いのが、本当のところです。
「あの時、ああすれば良かった」、「あの時にあんなこと言わなければ良かった」。皆さんにも、そのようなことがあるかと思います。お喋りな私は、特に後者の失敗や反省が多いのです。
子育てにおいても「小さい時に、こうすれば良かった」とか、「あの時この子に、あんなこと言わなきゃ良かった」と、思い当たることがありませんか。
しかし、済んでしまった過去は変えられません。取り戻したり、やり直したりすることも出来ません。でも、「出直し」は出来ます。
真面目な方ほど反省して、「私はダメだ」と落ち込む人がいます。落ち込んでいる時間は、何も生みませんし、少しも前に進みません。子育ても人生も「やり直しはきかないが、出直しなら出来る」と、言い聞かせましょう。