年長児は毎月、俳句を二首と和歌を一首覚えていますが、その中に万葉歌人の山上憶良(やまのうえのおくら)の歌があります。憶良は、子どもや家族への愛情をのびやかに歌い上げていますが、最も有名な歌が
銀(しろがね)も金(くがね)も玉も
何せむに優(まさ)れる宝(たから)
子にしかめやも
「金銀財宝といっても、我が子以上に優るものがあるだろうか、ありはしない」の意の歌です。またここから「子宝」という言葉が生まれたともされています。
他にも、憶良には有名な歌があります。
憶良ら 今は罷(まか)らむ 子泣くらむ
それその母も吾(わ)を待つらむぞ
「私憶良は、ここらで宴席を失礼して帰ります。家ではきっと子どもが泣いているし、その母親も私を待っているでしょうから」
憶良が活躍したのは、今からおおよそ千三百年くらい前です。その時代でも宴会が盛り上がっている最中に「妻子が待っていますので」との言い訳で退席するには勇気が必要だったかもしれませんし、宴席に残った人からは、「アイツは変わっているなあ」と言われたことでしょう。
現代社会でも、飲み会の席などで「家族が待っているので・・・」と言って、中座されたら、とたんに座がしらけてしまうばかりか、当人の評判は暴落し、ひょっとすると人事評価にも影響するかもしれません。
だから日本のお父さん達は「帰心矢のごとし(弓矢が飛ぶように早く帰りたい、という気持ち)」を、ぐっと堪えて水割りのグラスや、カラオケのマイクを握っているのです。(中には、まだ帰りたくないと思っている人がいるのかもしれませんが、とりあえずこの稿では論外とします・・・)
憶良はきっと「皆さんには、不義理をして申し訳ないのですが、夫婦や親子の関係も大切にしないと、後で取り返しがつかないことになります。ことに子どもが幼児の間は、父親がなるべく子どもと一緒に時間を過ごしてやることが、人間形成の上でも、欠かせないことだと思うのです。仕事と家庭の板挟みで、私としても辛いところなのですが、どうか皆さん分かって下さい」、ということを伝えたかったのではないでしょうか。
父親が子どもと一緒に遊んだりして、時を共に過ごすことが大切であることは当然ですが、私はそれ以上に「我が子のことを知る」のは、もっと重要だと思います。
我が子の
・クラス名、担任の先生の名前
・仲の良い友達の名前
・好きな食べ物、番組、音楽、動物など
全て自信をもって答えられますか?全問正解出来なかったお父さんにとって、今年の父の日が、そのきっかけになればと願います。